ポリフェノールには高い効果が知られていますが、その効果を体感できているのは6人に1人という調査報告があります。一般的にポリフェノールは吸収性が低いものが多く、ポリフェノールが機能性を発揮する一つの形として、ポリフェノールの腸内細菌代謝物についても健康に寄与する可能性が報告されています。
そこで、コーヒーのクロロゲン酸やワインのレスベラトロール、ミカンのヘスペリジンなど、特定のポリフェノールが腸内細菌によって代謝された際に共通して検出されるHMPA(3-(4-Hydroxy-3-Methoxyphenyl) Propionic Acidの略称)に着目しました。「HMPAを直接摂取すれば、腸内環境に左右されることなく様々な機能が期待できるのでは?」との考えのもと、丸善製薬株式会社はHMPAプロジェクトを立ち上げ、長年研究を続けてきました。
本記事では、丸善製薬株式会社研究開発本部に所属するHMPAプロジェクトメンバーが、開発の背景や苦労話、将来展望を語ります。
ポリフェノールの腸内細菌代謝物HMPAに着目
- HMPAに着目した背景を教えてください。
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栢木WHOは非感染性疾患のリスクを下げるため、1日に400g以上の野菜や果物の摂取を推奨しています。その有効成分のひとつであるポリフェノールですが、体内に摂取後、腸内細菌によって広汎な代謝を受けることが知られています。特に、フェニルプロパノイド(C6-C3化合物)はポリフェノールの合成経路や代謝経路の中間代謝物です。その中でも身体によいとされるコーヒーやカカオ、ブドウなどのポリフェノールが豊富な食品の摂取後に、血漿や尿中にも検出されるHMPAに着目しました。
- HMPAは発酵食品や乳酸菌と関係しているそうですが
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栢木はい、興味深いことに、市販のヨーグルトやチーズ、発酵食品に含まれる乳酸菌にもHMPA生産能が確認されました。γ-オリザノールやヘスペリジン、クロロゲン酸は腸内細菌によってHMPAに代謝されます。野菜や果物、発酵食品が身体によい理由のひとつとして、これら機能性腸内細菌代謝物の存在があると考えられています。近年、腸内環境への関心も高まっています。その中で乳酸菌のように食品のひとつのジャンルとして、機能性腸内細菌代謝物のポジション確立を目指しています。まず私たちは、HMPAを産業的に製造するプロジェクトを立ち上げました。
HMPAプロジェクトと産業化の壁
- HMPAを産業的に製造するプロジェクトが始まった当初の状況は?
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阿波はい、今でこそ安定的に量産化できる方法が確立されていますが、プロジェクト立ち上げ時には課題が山積みでした。具体的には、
- ①HMPA産生乳酸菌を培養する培地組成が定まっていない
- ②乳酸菌のHMPA産生能力が低い
- ③HMPAの精製方法が定まっていない
という状況でした。
- そのような課題をどのように整理して進めていったのですか?
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阿波経済産業省の2019年度「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」に応募したことで、産業化に向けた課題を言語化できました。おかげで、1年で培養条件を確立し、2年目にはスケールアップ検討が共通認識となりました。
- 実際の研究や開発で苦労した点を教えてください。
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阿波乳酸菌は生き物なので、環境が少し変わるだけで生育に大きな影響が出ます。どのような環境がHMPAの生成と乳酸菌の増殖に適しているのか、試行錯誤を重ねました。毎週、醸造会社や大学の方含むプロジェクトメンバーに定期報告を行い、様々な意見を取り入れつつ進めました。思うようにいかないことも多く、時にはプロジェクト自体の中断を提案されることもありました。温度や時間、培地成分の組成を少しずつ調整した結果、開始当初は6.5日かかっていた培養日数を1日に短縮し、HMPA生産能力も12倍に向上させることができました。
- スケールアップの段階ではどのようなことがありましたか?
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阿波弊社ラボで確立した方法を使い、醸造会社で工場試作を行いました。しかし、時間をかけて作業したにもかかわらず、初回は失敗してしまいました。スケールの違いで乳酸菌に最適な環境が崩れたことが原因でした。大学から再度アドバイスをもらい、研究所で培養条件を再検討。その後、10分ごとにデータを取得しながら実施した結果、ラボと同じ条件でスケールアップに成功しました。社内外の多くのメンバーと同じ目標に向かって作業を行えたことで、大きな達成感を得ることができました。今では何度も培養を繰り返し、安定的に製造できるようになりました。
人生100年時代到来に向けて
- HMPAを産業的に製造することに成功したということですが、健康に関する研究についても教えてください。
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桒原私たちは人生100年時代到来に向け健康寿命延伸をキーワードに研究開発を行っています。その中で、HMPAでは、2026年10月現在、抗肥満作用や血糖値の調整、コレステロールの低減、認知機能維持などの効果が確認されています。
HMPAを機能性関与成分とする機能性表示食品として、サプリメントだけでなく、飲料水やお菓子など様々な食品形態にご利用いただいています。
- HMPAの日という記念日も制定されました。
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桒原はい、HMPAの正式名称である3-(4-Hydroxy-3-Methoxyphenyl)Propionic Acidの頭の数字から「3月4日」を「HMPAの日」として、一般社団法人日本記念日協会に申請し、認定されました。
この記念日が毎年、多くの方々にHMPAの可能性を伝える機会になればと考えています。2026年からは、この記念日にあわせて、HMPA学術集会を開催しています。
- 将来展望をお聞かせください
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桒原私たちは、「野菜や果物、発酵食品を摂ることが身体によいとされている一つの理由としてHMPAのようなポリフェノール共通代謝物の存在がある」という仮説を考えています。この仮説が消費者や社会に受け入れられるには、認知度の向上と科学的エビデンスの積み上げが重要です。弘前COI-NEXTのプロジェクトでは、毎年1000人規模、数千項目のデータを継続的に蓄積しています。その様々なデータを用いて、血中の機能性腸内細菌代謝物と生活習慣に関連する指標との相関を解析し、腸内細菌代謝物と健康との関わりを実証していく予定です。
新たな機能性腸内細菌代謝物の有効性が証明されれば、健康長寿社会の実現に一歩近づくと考えています。丸善製薬は今後もエビデンスの蓄積と発信に努め、健やかな暮らしに貢献できる研究を続けてまいります。